2017.3.21 弁護士ブログ
GPS捜査についての最高裁判例
1 「真実はいつも1つ」に行き着くための手続きが大事
私が小学校のときからみているアニメで,主人公がバッジについた発信機の位置情報をたどりながら,犯人を追い詰めていくというシーンがありました。
現実にも,捜査機関は,犯罪捜査のため,被疑者(容疑者)等が使用する自動車にGPS端末を取り付け,その自動車の所在を検索して移動状況を把握するいわゆるGPS捜査を行うことがあります。
先日,最高裁は,このGPS捜査について,GPS捜査は刑事訴訟法が定める強制処分に該当し,GPS捜査の実施には令状の発付を要すると判断をしました。ニュースでも大きく取り上げられていたため,ご存じの方もいらっしゃるのではないかと思います。
今回は,この最高裁判決について,取り上げたいと思います。
2 強制処分については,令状の発付が必要
皆さんは,刑事訴訟法という法律をご存じでしょうか。
刑事訴訟法は,犯罪捜査と刑事裁判手続きについて定めた法律です。刑事訴訟法には,「強制の処分はこの法律に特別の定のある場合でなければ,これをすることができない」(197条1項ただし書き)とあります。つまり,強制処分は刑事訴訟法に定められているものでなければそもそも行うことができず,刑事訴訟法に定めがある強制処分であっても刑事訴訟法の規定に従って行わなければならないのです。
また,刑事訴訟法は,原則として,捜査機関が強制処分を行う場合には,事前に,裁判官が発する令状よって行わなくてはならないとしています。
したがって,捜査機関が行おうとしている捜査が強制処分なのか強制処分ではない任意処分なのかの判断は,捜査機関がその捜査を行ってよいのか,行うとしてどのような手続きをとればよいのか,裁判官から令状を受ける必要があるかを左右する極めて重要なポイントなのです。
3 判決内容
では,最高裁判決をみていきましょう。
最高裁は,まず,GPS捜査の性質について,
① 対象車両の時々刻々の位置情報を検索し,把握すべく行われるものである
② その性質上,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする
③ GPS捜査の捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害しえるものである
と判断しています。
そして,GPS捜査について,「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS操作は,個人の意思を制圧して憲法の保証する重要な法的利益を侵害するものとして,刑訴法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制処分にあたる。」としたのです。
4 最高裁判決の影響
以上のように,最高裁は,GPS捜査について,強制処分にあたると判断しました。
したがって,今後,捜査機関がGPS捜査を行うためには,事前に裁判官が発付する令状を受けなければいけないことになります。
しかし,最高裁は,裁判官がGPS捜査のための令状を発付できるかについて,「GPS捜査の特質に着目して憲法刑訴法の諸原則に適合する立法的措置を講じることが望ましい」と判断しており,現行法のままでGPS捜査について裁判官が令状を発付することについて消極的な立場をとっています。
そのため,今後は,法改正がない限り,捜査機関がGPS捜査を行うことは困難になると考えられるのです。
私がみていた少年探偵のアニメは,現在も放送されていますが,先日の最高裁判例をうけて主人公は探偵団バッチを使って犯人を追うことをやめるのでしょうか。私としては,アニメはアニメとしてそのままであってほしいものです。