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成年後見と横領

 先日、近所でお散歩をしていたご老人と、それに付き添っていた方に挨拶をしました。

ご老人は認知症で老人ホームから脱走したところでした。付き添っていた方は、どこへ行こうとしているのか見守っているのだと言われました。

相続手続で骨肉の争いを目の当たりにすると、世に多くいるであろうこのご老人のような方にこそ、成年後見制度は必要なのだと感じます。


 成年後見制度は民法第7条以下(選任手続については838条以下)に定められています。精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者(成年被後見人)について、家庭裁判所の審判を経て後見人を付すものです。被後見人の財産上の行為は、日常品の購入のような軽微なもの以外は、全て後見人により取り消すことができます。後見人は、被後見人に代わってその財産を全て管理し、家庭裁判所に定期的に報告しなければなりません。つまり被後見人は、後見人の財産を全て預かることになります。


 ここで、近年目立っている犯罪があります。後見人による被後見人の財産の横領です。大変残念なことに、弁護士による事件が目立っています。


 横領とは現金が目の前にある場合に発生しやすい、とても誘惑的な犯罪です。そして、犯罪が表面化しづらい状況があります。横領にも種類がありますが、後見人という立場で横領を行った場合、業務上横領罪が成立します。

横領についての刑罰は、刑法第252条以下に定められています。単純横領罪が5年以下の懲役であることに対し、業務上横領罪では10年以下の懲役に処せられます。この数字を短いと感じるか長いと感じるか、個人差によるとは思いますが、財産刑というのは傷害等よりは比較的軽微であるように感じられます。重すぎる刑罰はもちろん良くありませんが、職業倫理に照らして考えても、抑止にふさわしい刑罰であってほしいものです。


 財産を管理する立場の人間すべてが強い倫理観を持たねばならないことはもちろんですが、我々弁護士は相談者あってこそ仕事が成り立ちます。相談者は、数多くいる弁護士の中からたった一人を信頼して委任するのです。その信頼を裏切ってはならないという強い自制心こそ、犯罪の抑止につながるのではないでしょうか。

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